しかし、その弊害が家畜の病弱化という形で発生している。特に密飼いによる家畜への強烈なストレスは多くの病気や伝染病の発生を見るに至り、家畜の寿命の短命化に繋がった。そして病弱化した家畜から生産された畜産物に対して消費者がその安全性に疑問を抱き始めたのである。
1995 EUではすでに1999年5月のアムステルダム条約によって「動物愛護管理法」が制定され畜産動物に愛護という概念が持ち込まれた。人間ほどではないにしても血も流れ痛みや快感を肌で感じ、時には涙も流す。そのような感受性がある家畜たちを生き物らしく生活をさせるということは人間の道徳観の発露であり、そのことが家畜のストレスを軽減して、しいては健康的で安全な畜産物の生産につながり消費者が望む安全性の担保にも繋がるのである。
私は山地酪農という形で30年間、放牧酪農を経営してきた。1998年東北大学大学院農学研究科の佐藤衆介らは「搾乳牛の行動による低投入型放牧酪農の家畜福祉性評価」というテーマで著者の牧場を調査研究し、日本家畜管理学会で発表した。当時はまだ「家畜福祉」という概念すら一般にはなじみのないものであったが、その調査研究で高い評価を受けたことが今日まで放牧にこだわって酪農を続けられた一つの要素となった。
また、家畜福祉=放牧と言う価値観が生産物の付加価値となり、牛乳直売と言う業界では稀な経営で今日まで酪農経営を維持できたのである。今後の日本酪農は、いたずらに大量生産に走らず健康的な飼育方法が「家畜福祉=放牧」という概念とともに日本酪農に新たな方向性を示すものとなろう。